前置き:プロチームの勢力図に異変か?「カネか、技術か」、そして「カンパ」はどこへ?
ロードバイク乗りにとって、コンポーネント選びは永遠のテーマです。長らくプロレース界(ワールドツアー)ではシマノ(Shimano)が圧倒的なシェアを誇ってきましたが、ここに来て大きな潮目の変化が噂されています。
GCN Tech Show で議論されたように、来シーズンに向けてEFやUNOXといった、これまでシマノを使っていた複数のワールドツアーチームがSRAMのコンポーネントに切り替える可能性が高いという情報が飛び交っています。
もしこの噂が事実となれば、プロレースシーンにおけるシマノの独占時代が終わりを告げ、SRAMがシェアを大きく伸ばし、勢力が50/50に近づく可能性があります。この移行の最大の論点は、「カネか、技術か?」(Money or Tech?) という点です。
SRAMがより良いスポンサー契約(資金)を提示しているのか、それともチームが純粋にSRAMの完全ワイヤレス技術やX-Rangeギアシステムをプロチームが「より優れている」と判断した結果なのでしょうか。
私のようなエンジニア兼トライアスリート視点で見ると、このプロの動きはさておき、純粋に最新技術としての「優位性」はどこにあるのか、定量的な視点で分析し直します。
忘れられた第三勢力:Campagnolo の現状
かつてプロレースを席巻していたカンパニョーロ(Campagnolo, カンパ)は、この議論から外されがちです。しかし、カンパは長い歴史を持つメーカーです。
かつて2003年のツール・ド・フランスでは、全22チーム中12チーム(50%以上)がカンパニョーロのコンポーネントを使用していました。しかし、そのシェアは年々着実に減少し、現在ワールドツアーでの存在感はほぼゼロにまで減少しています。
2023年時点では、ワールドツアーでカンパを使用しているチームはわずか1チームでした。GCN Tech Showが公開された時点でも、Cofidis(コフィディス)チームが唯一のカンパニョーロ採用チームとして挙げられています。
カンパニョーロは現在、Super Record Wirelessという電動コンポを提供していますが、そのシェアの少なさから、多くのサイクリストは選択肢として考慮していないのが現状です。カンパは「本当に素敵なものを作る」という信頼性で勝負していますが、それが必ずしも純粋なレースパフォーマンスに直結するわけではないという指摘もあります。
最新世代の徹底比較:SRAM AXS vs Shimano Di2
最新の電動コンポーネント(SRAM AXS vs Shimano Di2)を、ITエンジニアとしての「使い勝手」や「システム設計」を重視し、5段階評価(5点:優れる/独自性あり、1点:劣る)で比較します。
| 評価項目 | SRAM AXS (eTap) | Shimano Di2 (12s) | 理由/解説 | AXS Score | Di2 Score |
|---|---|---|---|---|---|
| 1. 変速の滑らかさ/静音性 | ややぎこちない/うるさい | スムーズ/静か | シマノの方がスムーズで振動が少ない。 | 3 | 5 |
| 2. 変速速度/キレ | わずかに遅い | わずかに速い/キレがある | AXSは両押し判定の待ち時間があるため。 | 4 | 5 |
| 3. ギアシフトロジック(操作性) | 直感的 (1ボタン) | 伝統的 (機械式を踏襲) | SRAMのシンプルさはグローブ装着時やTTバー運用で優位。 | 5 | 3 |
| 4. ワイヤレス性/インストール | 完全ワイヤレス/非常に簡単 | セミワイヤレス/配線必要 | SRAMはケーブル配線が不要で組付けが圧倒的に容易。 | 5 | 2 |
| 5. ギア比の柔軟性 | ワイドレンジ/MTB互換 | 伝統的 (選択肢少) | SRAM X-Rangeは10TスタートでMTBコンポ混合可能。 | 5 | 3 |
| 6. 微調整の容易さ | 走行中シフターから可能 | 調整モードが必要、面倒 | SRAMは走行中に微調整(デバッグ)が容易。 | 5 | 2 |
| 7. パワーメーター統合 | 高性能/統合が容易 (Quarq) | 信頼性低/統合が難しい | SRAMのQuarqは市場でトップクラスの評価。 | 5 | 2 |
| 8. ブレーキフルード/扱いやすさ | DOTフルード (腐食性/扱い大変) | ミネラルオイル (扱いやすい) | メンテナンス性と安全性を考慮するとミネラルオイルに軍配。 | 2 | 5 |
| 9. カスタマイズ/拡張性 | 制限あり (Red/ワイヤレスBlips) | 優れている (3ボタン/Syncro設定) | Shimanoはサテライトシフターの選択肢が豊富。 | 4 | 5 |
| 10. 輪行時のバッテリー脱着 | 容易 (着脱式) | 困難 (内蔵式/車体ごと充電) | SRAMは輪行時や充電のためにバッテリーを取り外し可能。 | 5 | 1 |
| 11. スペアパーツのコスト | 高価 (一体型チェーンリング) | 標準的 (交換可能チェーンリング) | SRAMはRed/Forceの一部でチェーンリングが一体型で、交換時に高コスト。 | 2 | 4 |
| 最終合計点 | 45点 | 39点 |
ITエンジニア的 最終結論:SRAM AXSの技術的優位性がスコアを押し上げた!
この評価では、SRAM AXSが45点、Shimano Di2が39点となり、SRAM AXSが勝利という結果になりました。
SRAMが評価されたポイント(UX/拡張性)
SRAMが勝利した最大の要因は、システム設計における「使い勝手」と「拡張性」です。
- 完全ワイヤレスによる利便性 (スコア5点):フレームにケーブルを通す必要がなく、組付けやメンテナンスが極めて容易。これはITエンジニア的な「デプロイの容易さ」として高評価です。
- 輪行・充電の容易さ (スコア5点):ディレイラーバッテリーが着脱式で、輪行時に外して持ち運ぶのが簡単。内蔵バッテリーのDi2のようにバイク本体をコンセントまで運ぶ必要がないという運用面のメリットが大きい。
- 柔軟なギア比 (スコア5点):MTBコンポと混合できる「X-Range」システムは、グラベルやトライアスロンでのカスタマイズ性が高く魅力的。
Shimanoが評価されたポイント(基本性能/信頼性)
Shimanoは、コンポーネントとしての「基本性能の質」と「ブレーキの扱いやすさ」で優位でした。
- 変速の「質」 (スコア5点):変速の滑らかさ、静かさ、フロント変速の確実性(特にオートトリム機能)はシマノが勝るという意見が多い。
- メンテナンスの容易さ (スコア5点):ブレーキフルードに腐食性のDOTフルードではなく、扱いやすいミネラルオイルを採用している点。
- 拡張性 (スコア5点):サテライトシフターやフード上の隠しボタンなど、カスタマイズの選択肢が豊富であり、変速タイミングを細かく設定できる。
注意点:パーツ代とブレーキ
ただし、SRAMを選ぶ上で知っておくべき重要なトレードオフがあります。
- スペアパーツのコスト:SRAM Red/Forceの一体型チェーンリングは、摩耗した場合にアセンブリ全体を交換する必要があるため、ランニングコストが高くなる可能性があります。
- ブレーキフルード:SRAMが採用するDOTフルードは吸湿性があり腐食性があるため、ミネラルオイル(シマノ)よりもエア抜きやメンテナンスに注意が必要です。
まとめ:あなたの「最適解」はどちらか?
プロチームの移行の背景には、技術と資金の両方が絡んでいることは間違いありません。
私たち一般ユーザーにとっては、どちらのシステムも非常に優れていますが、あなたの「最適解」は利用シーンによって異なります。
- 「ロードレース特化」で、最速の変速性能と伝統的で信頼性の高いブレーキシステムを求めるなら: Shimano Di2。
- 「組付けの手軽さ、輪行頻度、グラベル/オールロード運用、拡張的なギア比」といったUXとモジュラリティを重視するなら: SRAM AXS。
特にケーブルの煩雑さを避けたい自作派ローディーや、出張や遠征が多く輪行時のバッテリー管理を楽にしたいトライアスリートにとって、SRAM AXSの完全ワイヤレス設計と着脱式バッテリーの魅力は計り知れません。
さあ、プロチームの動向を追いかけつつ、あなたの次のバイクがどちらになるか、ぜひコメントで教えてください!
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