最初の1台はロードバイクでいい — TTバイク不要論
トライアスロンを始めるなら、まずロードバイクを
トライアスロンを始めようと思ったとき、最初にぶつかる壁が「どんなバイクを買えばいいのか」という問題です。トライアスロンの雑誌やSNSを見ると、DHバーが付いたTTバイク(タイムトライアルバイク)に乗った選手の写真ばかりが目に入ります。あれを見ると「トライアスロンにはTTバイクが必要なのか」と思ってしまうのも無理はありません。
結論から言うと、最初の1台はロードバイクで十分です。正直に言うと、初心者がいきなりTTバイクを買うのは、完走を目指す段階ではほとんどの場合オーバースペックだと私は思っています。

ロードバイクとTTバイクの違い
まず基本的な違いを整理しておきます。
ポジションの違い。ロードバイクは上体がやや起きた姿勢で、ハンドルのドロップ部分を握って走ります。TTバイクはDHバー(エアロバー)に肘を乗せて、上体を極端に前傾させた姿勢をとります。この前傾姿勢は空気抵抗を減らすためのもので、高速で巡航する選手には確かに効果があります。ただし、この姿勢は体幹の強さと股関節の柔軟性が必要で、初心者がいきなりやると体を痛めがちです。
価格の違い。TTバイクはロードバイクより基本的に高いです。エントリーモデルでも40万円前後、まともなものだと80万〜100万円は覚悟が必要です。同じ予算なら、ロードバイクならかなり良いものが手に入ります。
用途の広さ。ここが最大のポイントです。ロードバイクは通勤、週末のグループライド、ヒルクライムイベント、ロングライド、そしてもちろんトライアスロンと、何にでも使えます。TTバイクはトライアスロンのレースとTTレースにしか使えません。グループライドにTTバイクで行くと、ハンドリングが不安定で危険ですし、周りにも気を使わせてしまいます。
初心者にロードバイクを勧める5つの理由
- 練習で圧倒的に使いやすい。平日の朝練や週末のロングライドで、TTバイクは取り回しが悪いです。信号の多い市街地ではDHポジションなんて取れませんし、集団走行もできません。ロードバイクなら何も考えずに外に出られます。
- グループライドに参加できる。バイクが上達する最も効率的な方法は、自分より速い人と一緒に走ることです。トライアスロンのチーム練習やショップの走行会は、ほぼすべてロードバイクが前提になっています。
- 輪行しやすい。練習場所や大会に電車で移動するとき、ロードバイクなら輪行袋に入れて運べます。TTバイクはDHバーの分だけかさばり、フレーム形状が特殊で輪行袋に収まりにくいです。
- メンテナンスが楽で安い。ロードバイクのパーツは汎用品が多く、どのショップでも対応してもらえます。TTバイクは専用パーツが多く、在庫がなければ取り寄せで数週間待ちということもあります。
- リセールバリューが高い。もし合わなかったとき、ロードバイクは中古市場が活発で売りやすいです。TTバイクは買い手が限られるので、なかなか売れません。
予算別のおすすめの選び方
最初に、最近のロードバイク事情を押さえておきます。ここ数年で価格はかなり上がりました。円安や原材料高の影響で、以前なら15万円で買えたクラスが、いまは20万円台が当たり前です。また、ブレーキはディスクブレーキが標準になりました。各社ともリムブレーキ車をほぼ終了していて、Specializedのように完全にディスクへ統一したメーカーもあります。雨でも効きが安定し操作も軽いので、これから買うならディスク一択でいいでしょう。コンポーネントも、シマノ105は12速化(機械式のR7100、電動のDi2)が進んでいます。
中古で15万〜20万円前後
新車が値上がりしたぶん、中古の割安感はむしろ増しています。数年落ちのアルミ・ディスク・105搭載あたりが、状態の良いもので15万〜20万円前後で出ています。トライアスロンのレースに出るには何の問題もありません。中古のアルミロードでも、しっかり脚を鍛えればTTバイクの選手に引けを取らない走りは十分できます。結局は機材より脚です。
ただし、フレームサイズだけは妥協してはいけません。サイズが合わないバイクは、どう調整しても体に合いません。身長とフレームサイズの適合表を必ず確認してください。中古は、フレームのクラックや変速の不調を見抜くのが難しいので、信頼できるショップで整備済みのものを買うのが安心です(費用全体の話はトライアスロンを始めるのにいくらかかる?にまとめました)。
新品エントリーモデルで20万〜30万円
いまの定番は、アルミフレーム+油圧ディスクブレーキのモデルです。TREKのDomane AL、GIANTのContend、SpecializedのAllez、MERIDAのScultura、BianchiのVia Nironeあたりが代表格。たとえばTREK Domane AL 5は機械式105(12速)+油圧ディスクで25万円前後と、エントリーながらレースに必要なものが一通り揃います。もう少し抑えたいなら、TiagraやSora搭載の下位グレードが15万〜20万円台であります。「ちょうど大卒初任給くらいの入門モデルを選ぶと長く使える」とよく言われる価格帯です。
ミドルグレードで50万円前後
カーボンフレームに105 Di2(電動変速)やUltegraが付いてくる価格帯です。正直に言うと、完走が目標の初心者がここまで出す必要はありません。ただ、「長く続ける確信がある」「他のスポーツ経験があって体力に自信がある」という人なら、最初からこのクラスを買うのもアリです。買い替えの必要がなくなるので、トータルでは安く済む場合もあります。
私のバイク遍歴 — ロードからTTへ
私自身の話をします。トライアスロンを始めて練習に使っていたのは、**10年ほど前に買って持っていたロードバイク(Cannondale R700、52cmのアルミフレーム、シマノ105仕様)**でした。つまり、練習段階ではバイクに追加でお金をかけずにスタートしています。古いアルミロードでしたが、105が付いていれば練習には十分。先ほど「105以上あれば不満は出ない」と書いたのは、まさにこの実体験からです。
……ところが、ここからが正直な白状です。「今後ガッツリやっていく」と決めた私は、初レースの3週間前にTTバイク(Specialized Shiv Pro Dura-Ace)を納車してもらい、初めての大会をそのTTバイクで走りました。さんざん「初心者にTTバイクは不要」と説いておきながら、自分の初レースはピカピカの60万円のTTバイク。しかも納車3週間です(笑)。「私の言うとおりにして、私のやったとおりにはしないでください」というやつです。

念のため言うと、これは完走のための投資ではなく、趣味として本気でやると決めた人間の道楽でした。実際にTTバイクで感じた差も、正直「劇的」というほどではありません。高速巡航は確かに楽になりますが、オリンピックディスタンスの40kmバイクで稼げるのはせいぜい数分。その数分は、ランの走力を上げれば取り返せる程度の差です。空力の話に興味があればハイドレーションの設置場所による空気抵抗の違いも読んでみてください。納車3週間のバイクでぶっつけ本番だったことを考えると、むしろ慣れたCannondaleで出た方が安全だったかもしれません。
一方で、TTバイクにして困ったこともあります。グループライドに参加しづらくなり、輪行もやりづらくなりました。結局、練習用にロードバイクも手放さずに持っています。2台持ちはスペースも維持費もかかります。だからこそ、最初の1台はロードバイクでいいと、経験者として強くおすすめするのです。
DHバーという選択肢
もしどうしても「トライアスロンっぽい」バイクが欲しいなら、ロードバイクにDHバーを後付けするという手があります。数千円〜1.5万円程度で買えますし、取り付けも簡単です。レースのときだけDHポジションを使い、普段の練習では外しておけます。

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軽量で空気力学的な設計で最適なパフォーマンスを発揮。
ただし、ロードバイクのジオメトリはDHポジションを前提に設計されていないので、長時間のDHポジションは体への負担が大きいです。あくまで「お試し」と割り切ってください。本格的にDHポジションで走りたくなったら、そのときにTTバイクを検討すればいいのです。
バイクの性能より脚力が先
個人的には、バイクに50万円かけるくらいなら、その時間と労力を練習に使った方がいいと思っています。50万円のバイクより50時間の練習の方が、確実にタイムは縮まります。
IRONMANのバイクパートで周りを見ていて思うのは、高価なTTバイクに乗っていても、脚がうまく回っていない人が一定数いるということです。ディスクホイールにエアロヘルメット、完璧な機材なのに、重いギアを低いケイデンスでゴリゴリ踏んでいる。それなら手頃なロードバイクで軽快に回している方がよほど速いです。
機材は、ある程度のレベルに達してから効いてくるものです。まずはペダリングの基礎を身につけて、脚そのものを鍛えることに集中した方が、結果的に近道になります。
そもそもショートの大会は、テクニカルなコースが多いです。カーブや折り返し、信号区間が多く、DHポジションでじっと巡航できる時間は意外と短い。せっかくのTTバイクの空力性能を活かせる場面が限られるのです。それなら、TTバイクで削り出す数分より、練習で脚を鍛えたり、トランジションをスムーズにこなしたりして削る数分の方が、よほど効率的です。トランジションは機材ゼロ円で短縮できます(トランジションで5分損する人、1分で済む人の違い)。
ロードバイクは「実用性」でも勝る
最後に強調しておきたいのは、ロードバイクは実用性の面でも必須に近いということです。TTバイクは街乗りができません。広くて安全な場所でしか安心して乗れないので、日常的な練習機材としての実用性はほぼゼロです。信号で止まる、車をかわす、仲間と並走する——こうした「普通の練習」はロードバイクでないと成立しません。
逆に、ミドル以上(ミドル・IRONMAN)を主戦場にすると決めたなら、TTバイクは必要になってきます。長い距離をDHポジションで巡航し続ける場面が増え、空力の差が積み重なって効いてくるからです。つまりTTバイクは「不要」なのではなく、「そのステージに来たら検討するもの」。最初の1台がロードバイクであるべき、という結論は変わりません。
よくある質問
クロスバイクやママチャリではダメですか?
ルール上は出られますし、完走している人もいます。ただ、ロードバイクと比べると明確に遅く・疲れやすいので、レースを楽しみたいなら早めのロードバイク移行をおすすめします。
中古と新品、どちらがいい?
予算を抑えたいなら中古、安心を取るなら新品です。中古を選ぶ場合は、フレームのクラックや変速の不調を見抜くのが難しいので、個人売買より整備済みの中古ショップが無難です。
コンポーネントは何を選べばいい?
シマノ105以上があれば、レースで不満を感じることはまずありません。初心者のうちは、フレーム素材(カーボンかアルミか)よりもコンポーネントのグレードの方が、体感できる差が大きいです。
TTバイクはいつ検討すればいい?
ロングディスタンス(ミドル・IRONMAN)に出るようになり、空力の差が積み重なって効いてくる距離を走るようになってからで十分です。完走が目標の段階では不要です。
まとめ
- 最初の1台はロードバイクで十分。TTバイクはロングに出る段階で検討すればいい
- 値上がりした今は、中古のアルミ・ディスク・105が15万〜20万円前後で狙い目。フレームサイズだけは妥協しないこと
- ロードバイクは練習、グループライド、通勤、輪行と万能。TTバイクはレース専用機
- 50万円のバイクより50時間の練習が速くなる。まずは脚を鍛えることに集中しよう
- どうしてもエアロポジションが欲しければ、ロードバイクにDHバーを後付けする手がある