レース中の補給戦略 — 何を・いつ・どれだけ摂るか
結論:補給は「4つ目の種目」
トライアスロンは3種目の体力だけで完走できるほど甘くありません。どれだけ練習を積んでも、レース中の補給を間違えれば体は動かなくなります。補給戦略はトレーニングと同じくらい重要な「4つ目の種目」です。
この記事では、距離別のエネルギー消費量の目安から、具体的に何を・いつ・どれだけ摂るかを整理します。
距離別のエネルギー消費量を把握する
まず、自分のレースでどのくらいのエネルギーを使うかを知ることが出発点です。体重や運動強度で変わりますが、おおよその目安を挙げておきます。
| 距離 | レース時間目安 | 消費カロリー目安 | 補給の必要性 |
|---|---|---|---|
| スプリント(S750/B20/R5) | 1〜1.5時間 | 700〜1000kcal | ドリンクのみでも可 |
| OD(S1.5/B40/R10) | 2〜3時間 | 1500〜2000kcal | バイクでジェル必須 |
| ミドル(S1.9/B90/R21) | 4〜6時間 | 3000〜5000kcal | 計画的な固形物補給 |
| IRONMAN(S3.8/B180/R42) | 9〜17時間 | 8000〜10000kcal | 1時間あたり200〜300kcal |
スプリントなら、スタート前にしっかり食事をしていればレース中はドリンクだけで十分なことが多いです。ODから本格的な補給計画が必要になります。
OD(オリンピックディスタンス)での補給計画
初心者が最初に出場するのはスプリントかODが多いです。ここではODを前提に、具体的な補給プランを説明します。
スイムパート
スイム中に補給はできません。レース2〜3時間前に朝食をしっかり摂り、スタート30分前にジェル1本を摂っておくのが私のルーティンです。おにぎりとバナナなど消化が良くて胃に負担がかからないものを選んでいます。
バイクパート(補給のゴールデンタイム)
バイクは補給のゴールデンタイムです。ペダルを漕ぎながら食べられるし、胃への衝撃もランに比べて少ないです。ODのバイクパートの目安は以下の通りです。
- ドリンクボトル1本(スポーツドリンク、約100kcal)
- ジェル1〜2本(約100〜200kcal)
- 必要に応じて固形物(エネルギーバー半分など、約100kcal)
20〜30分に1回ドリンクを一口飲み、バイク開始30分後にジェル1本、残り10km地点でもう1本が基本です。合計200〜400kcalを目安にしてください。
ランパート
ランでは胃が揺れるので、固形物は避けた方がいいです。ジェルとドリンクが中心になります。ODのラン10kmなら、5km地点のエイドでジェル1本とコーラを一口が定番です。コーラは糖分とカフェインが一気に入るので終盤の味方になります。ただし、普段コーラを飲まない人がいきなりレースで飲むのはリスクがあるので注意してください。
ジェル・ドリンク・固形物の使い分け
ジェル

吸収が早く、レース中の補給の主力です。1本で約100kcal、25〜30gの炭水化物を摂取できます。片手で摂取でき吸収が速いのがメリット。甘すぎて嫌になる人がいることと、水と一緒に摂らないと胃がもたれやすいのがデメリットです。個人的にはマルトデキストリン系(甘さ控えめ)のジェルが好みです。

KODA コーダ ENERGY GEL エナジージェル コー...
国内ではMag-onも人気です。ジェルの味は好みが大きいので、複数ブランドを試して自分に合うものを見つけてください。

Mag-on (マグオン) エナジージェル おためし3味各3...
グレープフルーツ 内容量:41g×3個 ウメ 内容量:41g×3個 アップル 内容量:41g×3個 合計9個 商品パッケージの寸法: 12.5 × 6.5 × 0.5 cm 原産国:日本
スポーツドリンク
水分と電解質とエネルギーを同時に摂れます。ただし、ジェルとスポーツドリンクを同時に摂ると糖質の濃度が高くなりすぎて胃腸トラブルを起こすことがあります。ジェルを摂るときは水で流し、ドリンクを飲むときはジェルを控えるように使い分けるのがコツです。
固形物
エネルギーバー、おにぎり、バナナなどは腹持ちが良く、ロングレースでは精神的にも助かります。消化に時間がかかるので、バイクパートの前半で摂り、後半からはジェルに切り替えるのが基本です。ODではバイクで少量の固形物を摂れば十分で、ランパートでは不要です。
「何も吸収されない」状態 — 補給計算が正しくても起きる
補給トラブルといえばハンガーノック(エネルギー切れ)が有名ですが、私が経験したのは別の問題でした。電解質を計算通りに摂っていたにもかかわらず、レース後半から何も体に入らなくなりました。ジェルも水も、いくら摂っても吸収されない感覚です。
原因は2つあったと考えています。
1つ目は、消化管への血流不足。強度の高い運動中は、筋肉(脚)への出力を確保するために血液が集中します。その分、胃腸への血流が著しく低下します。胃腸は血流がないと消化・吸収ができないため、どれだけ正しく補給しても体に届かなくなります。補給の計算式より先に、「体が消化できる状態にあるか」が問題になるわけです。
2つ目は、ウェアによる圧迫。当時ツーピースのトライウェアを着ていたため、ウェストのゴムがお腹を締め付けていました。これが消化管周辺の血流をさらに悪化させていたと思われます。
この経験からワンピース(スーツタイプ)のトライウェアに切り替えました。ロングレースでのウェア選びは、動きやすさだけでなく「腹部を締め付けないか」も重要なポイントです。
対策まとめ:
- レースペースを上げすぎない(消化管への血流を確保する)
- ロングレースにはワンピース型ウェアを検討する
- 補給は少量・頻繁に。胃腸への負担を分散する
- 異変を感じたらペースを落として消化管に血流を戻す
なお、電解質補給には塩タブレットも有効です。スポーツドリンクだけでは塩分が不足するケースで、足がつる予防にもなります。

ヒマラヤ 岩塩 タブレット【携帯ケース入り50錠×3個セット...
内容量:50錠×3個
ロング距離の補給理論についてはレース中のエネルギー補給を考えるに詳しくまとめています。
練習で補給の練習をする — 胃腸も鍛えるもの
「レース当日に初めて食べるものは使うな」。これはトライアスロンの鉄則です。私自身、ミドルやロングレースでは練習で試していないものは絶対に使いません。補給は装備と同じで、ぶっつけ本番は禁物です。
補給の練習は、週末のロング練習(バイク2時間以上、ランの後半練習)で必ず行うべきです。具体的には以下を確認してください。
- ジェルの味と種類の相性(甘い系、フルーツ系、カフェイン入りなど)
- 摂取タイミング(20分ごとか30分ごとか)
- ドリンクの濃度(濃すぎると胃がもたれる)
- 固形物の消化速度(バイクで食べてランで気持ち悪くならないか)
胃腸もトレーニングで鍛えられます。最初はジェル1本でも気持ち悪くなる人がいますが、練習で繰り返し摂取していると、だんだん受け付けるようになります。
補給計画をレースに落とし込む
レース前に補給計画を書き出すことをおすすめします。ODを例にすると以下のようになります。
| タイミング | 補給内容 | カロリー目安 |
|---|---|---|
| レース3時間前 | おにぎり、バナナ、水500ml | 500〜600kcal |
| レース30分前 | ジェル1本+水200ml | 100kcal |
| バイク20km(30分後) | ジェル1本+水 | 100kcal |
| バイク35km(50分後) | スポーツドリンク | 50〜100kcal |
| T2前 | ジェル1本+水 | 100kcal |
| ラン5km | エイドでコーラ一口+水 | 50kcal |
| ラン8km | ジェル1本(余裕があれば) | 100kcal |
ロングの場合はこの計画をさらに細かく、6時間以上にわたって管理する必要があります。バイクのトップチューブに補給スケジュールを貼っている選手もいるくらいです。
よくある質問
Q. 固形食は絶対に必要ですか?
ODまでなら固形食なしでも完走できます。ジェルとドリンクだけで必要カロリーは摂れます。固形食はロングレースで精神的な満足感が必要になったときに出番があります。
Q. カフェイン入りジェルはいつ使うべきですか?
終盤の眠気覚ましや集中力回復に有効です。ただし空腹時や胃腸が弱っている状態で摂ると胃痛の原因になります。バイク後半かランの後半、かつドリンクと一緒に摂るのが安全です。また、カフェインに敏感な体質の方は練習で必ず試してからにしてください。
Q. 塩タブレット(塩分補給)は必要ですか?
汗で失われる電解質を補うために有効です。特に夏の暑い日のレースでは足がつりやすくなるので、バイクパートで定期的に摂ると予防になります。スポーツドリンクだけでは塩分が足りないケースもあります。
Q. レース前夜はカーボローディングすべきですか?
ODまでなら過度なカーボローディングは不要です。いつもより少し炭水化物多めの食事で十分です。食べ過ぎると当日の胃の重さに繋がるので逆効果になることもあります。ロングレースから本格的なカーボローディングが意味を持ちます。
まとめ
- エネルギー消費量はODで1500〜2000kcal、ロングで8000〜10000kcal。距離に応じた補給計画が不可欠
- バイクパートが補給のゴールデンタイム。ランでは胃が揺れるのでジェルとドリンクに絞る
- ハンガーノックは予防が全て。「お腹が空いた」と感じる前に摂るのが鉄則
- レースで初めて食べるものは絶対に使わない。練習で試して胃腸を慣らしておく
- 補給計画は事前に書き出してバイクに貼るくらいの気持ちで準備する