IRONMANは本当に高齢化している?リザルト延べ202万人で見た年代構成の10年と国別の差

結論から言うと#

日本では「IRONMANの参加者は高齢化している」とよく言われます。本当にそうなのか、2016〜2026年のIRONMANとIRONMAN 70.3のリザルトを延べ約202万人分集計してみました。結果は次のとおりです。

  • 世界では、2023年から急速に若返っています。 30歳未満の比率は2022年→2026年で、70.3が14%→27%、フルが9%→23%に増えました。
  • 30歳未満が50歳以上を上回りました。 70.3は2025年、フルは2026年に逆転しています。
  • 日本人の参加者は、世界と逆に高齢化しています。 海外レースに出た日本在住の選手のうち、55歳以上は2016年の19%から2026年には45%になりました。
  • 原因はIRONMANだけではありません。 国内の一般の大会でも50歳以上が過半数になり、新しくIRONMANに出る日本在住の選手も30歳未満は1割しかいません。
  • 国によって差が大きいです。 デンマークの30歳未満は18%から40%に増えた一方、日本・韓国・台湾は横ばいか減っています。

つまり、「高齢化」は日本人の参加者に限った話で、世界の実態とは逆でした。

使ったデータと集計方法#

使ったのは、私が整理して公開しているトライアスロンのリザルトデータです。IRONMANとIRONMAN 70.3の285大会、のべ1,401レース分のリザルトが入っています。

項目内容
期間2016〜2025年の10年間+2026年(年途中)
対象エイジ選手。プロとDNSは除外
年齢エイジグループの下限で数える(M30-34なら30歳)
指標人数ではなく、年ごとの年代構成比
国リザルトの居住国欄(国籍ではない)

人数ではなく構成比で見ているのは、データに入っている大会の数が年によって違うからです。特に2020年はコロナ禍の影響で、フルが5大会、70.3は15大会しかありません。2026年もまだ年の途中なので、参考値として見てください。

後半の「なぜ日本だけ取り残されているのか」では、同じデータに入っている国内の一般の大会のリザルトも使っています。

発見1:2023年から若返りが急加速している#

2016〜2026年の年代構成比の積み上げ棒グラフ。赤い層の30歳未満が、70.3では2022年の14%から2026年の27%へ、フルでは9%から23%へ広がっている

グラフの下にある赤い層が30歳未満です。2016〜2022年はほとんど変化がありません。それが2023年から急に広がり始め、2024年以降さらに加速しています。

年70.3の30歳未満70.3で最も多い年代フルの30歳未満フルで最も多い年代
201612.9%40-449.6%40-44
201913.3%40-449.2%40-44
202214.1%40-448.9%40-44
202315.6%40-4411.3%40-44
202419.2%30-3414.3%40-44
202523.6%30-3417.5%40-44
202627.4%25-2923.2%30-34

最も多い年代は、10年近く40-44でした。70.3では2024年に30-34へ移り、2026年には25-29が首位です。フルも2026年に30-34が首位になりました。

20代も大きく増えています。30歳未満の比率は、コロナ明けの2022年と比べて2026年には70.3で1.9倍、フルで2.6倍になっています。

発見2:30歳未満が50歳以上を逆転した#

30歳未満と50歳以上の比率の推移。70.3では2025年に30歳未満23.6%が50歳以上20.9%を上回り、フルでは2026年に23.2%対23.1%で逆転した

面白いのは、2022年までは世界でも50歳以上の比率が伸び続けていたことです。フルの50歳以上は2016年の21.0%から2022年には30.2%まで増えていました。この時期までは、世界でも「高齢化」と言える状態でした。

流れが変わったのは2023年です。30歳未満が増えた分だけ50歳以上の比率が下がり、70.3では2025年、フルでは2026年に、ついに30歳未満が50歳以上を上回りました。

発見3:日本人の参加者だけが逆に高齢化している#

日本在住の選手と世界全体の比較。2026年の年代構成比では、日本在住の選手の45%が55歳以上で、30歳未満は5%しかいない。55歳以上の比率は2016年の19%から2026年の45%に増えたが、世界全体は12%前後で横ばい

日本在住の選手が海外レースに出たときの年代構成を見ると、世界とはまったく逆の動きでした。

指標20162019202220252026
日本在住の選手の30歳未満6.0%5.2%5.4%3.9%4.8%
日本在住の選手の55歳以上19.1%24.6%37.6%40.4%45.4%
世界全体の55歳以上8.0%10.3%13.0%12.3%11.5%

2026年の世界では、25-29(16.3%)と30-34(15.9%)が最も多い年代です。一方、海外に遠征する日本人は55歳以上が45%を占め、30歳未満は5%弱しかいません。日本で「IRONMANは高齢化している」と言われるのは、日本人の参加者だけを見ればそのとおりです。

国内で開催されるIRONMAN Japanでは、30歳未満が2024年5.0%、2025年6.1%、2026年8.9%と少しずつ増えています。ただし55歳以上も約28%で、世界との差はまだ大きいです。

発見4:若手が増えた国、減った国#

国別にも見てみました。2016〜2019年に1,500人以上、2025年に500人以上のエイジ選手がいる39か国が対象です。

国別の30歳未満の比率の変化。デンマーク、ノルウェー、オーストラリア、ベルギー、オランダなどで大きく増え、台湾、コロンビア、コスタリカ、日本、韓国などでは減っている

若手が大きく増えた国#

国2016-192025変化
デンマーク18.3%40.4%+22.1pt
ノルウェー15.6%35.6%+20.0pt
オーストラリア12.2%30.9%+18.6pt
ベルギー14.7%31.6%+16.9pt
オランダ13.8%30.2%+16.4pt
カナダ11.8%26.5%+14.7pt

北欧・西欧・オセアニア・北米が中心です。デンマークは、エイジ選手の10人に4人が30歳未満になりました。参加者の多いアメリカ(11.7%→22.0%)、イギリス(13.5%→23.6%)、ドイツ(10.5%→21.2%)でも、30歳未満の比率は2倍近くに伸びています。

若手が減った国#

国2016-192025変化50歳以上の比率
台湾7.9%3.8%-4.2pt11.9%→28.8%
コロンビア17.4%13.2%-4.1pt8.2%→11.3%
コスタリカ11.8%7.9%-3.8pt7.6%→16.1%
日本6.0%4.4%-1.6pt36.8%→57.3%
韓国4.1%2.7%-1.5pt30.1%→39.6%

39か国のうち10か国で30歳未満の比率が下がりました。主に東アジアと中南米の国です。なかでも日本・韓国・台湾は50歳以上の比率が大きく上がっていて、高齢化がはっきり進んでいます。日本の50歳以上は57.3%で、39か国の中で最も高い数字でした。

この表の「日本」は、国内のIRONMAN Japanを含む全レースの日本在住の選手です。発見3の「海外レースに出た日本在住の選手」とは対象が少し違います。

発見5:世界選手権の若返りは遅れてやってくる#

IRONMANのスコット・デルーCEOは、インタビューで「2026年9月のニースの世界選手権は、30歳未満が25%くらいだった」という趣旨の話をしていました。ニースで開かれたIRONMAN 70.3世界選手権のリザルトで確かめてみます。

30歳未満の比率の比較。ニースの70.3世界選手権2026は15.6%、マルベーリャの70.3世界選手権2025は18.1%。70.3シリーズ全体は2025年23.6%、2026年27.4%で、CEO発言の25%に近いのはシリーズ全体

ニースのエイジ選手5,944人のうち、30歳未満は15.6%でした。25%に近いのは、世界選手権ではなく70.3シリーズ全体の数字(2025年23.6%、2026年27.4%)です。CEOの発言はシリーズ全体の話だったのかもしれません。

世界選手権の30歳未満は、2019年13.8%、2025年18.1%、2026年15.6%と、シリーズ全体ほどは伸びていません。世界選手権に出るには予選で枠を取る必要があります。若い選手が増えても、その選手たちが速くなって枠を取るまでには時間がかかります。そのため世界選手権では、若返りが数年遅れて表れるのだと思います。

なぜ日本だけ取り残されているのか#

リザルトをさらに掘ると、原因はIRONMANでも海外遠征でもなさそうです。日本のトライアスロン全体で、若い人が新しく入ってきていません。根拠を3つ紹介します。

理由1:50歳未満が海外レースに行かなくなった#

2019年と2025年の両方にデータがある海外の95大会で、出場人数を比べました。

対象20192025変化
世界全体164,661人148,418人-10%
世界全体の40歳未満70,547人77,721人+10%
日本在住の40歳未満189人52人-72%
日本在住の40-49歳271人77人-72%
日本在住の50歳以上335人208人-38%

日本在住の選手は、海外レースへの出場が6割近く減りました。減り方は年代で大きく違い、50歳未満は約7割減、50歳以上は約4割減です。発見3で見た55歳以上の比率の上昇は、年配の選手が増えたからではありません。若い選手が先にいなくなった結果でした。

背景にあるのは円安とインフレです。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが公表している年間平均(2019年、2025年のTTSとTTBの中間)で見ると、1ドルは約109円から約150円、1ユーロは約122円から約169円になりました。外貨建ての航空券や宿泊、エントリー費は、為替だけで4割近く高くなった計算です。海外の物価も上がっているので、実際の負担はそれ以上です。

一方で、国内の賃金は物価に追いついていません。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、2025年の実質賃金は前年比1.3%減で、4年連続のマイナスでした。貯蓄や収入に余裕のある年配の選手は遠征を続けられても、子育てや住宅費を抱える30〜40代には手が届きにくくなっています。

理由2:国内の一般の大会も同じように高齢化している#

遠征の費用だけが原因なら、国内の大会は若いままのはずです。そこで、2016・2019・2023・2025年のすべてにデータがある国内19大会(横浜、佐渡、長良川国際など)を集計しました。IRONMANではない、日本の一般的な大会です。こちらはエイジグループではなく、リザルトの年齢欄で数えています。

年代20162025変化
30歳未満1,469人1,052人-28%
30代3,202人1,590人-50%
40代5,128人2,750人-46%
50歳以上3,814人5,586人+46%
合計13,613人10,978人-19%

50歳以上の比率は28.0%から50.9%に増え、平均年齢は43.5歳から48.1歳になりました。9年で平均年齢が4.6歳上がっています。2016年に40代だった層がそのまま50代になり、下の世代がほとんど補充されていない形です。

距離による差もほとんどありません。

大会2016の50歳以上2025の50歳以上平均年齢
横浜(スタンダード)27.0%49.8%43.9歳→48.3歳
宮古島(ロング)35.6%59.5%46.0歳→50.1歳
佐渡(Aタイプ)34.0%62.5%46.6歳→50.9歳

IRONMANの海外レースで見えた高齢化は、日本のトライアスロン全体で起きていることの一部でした。

理由3:新しく始める人も若くない#

世界の若返りは、新しく参加する人が若いことで起きています。IRONMANのリザルトの選手IDを使い、データ上で初めて出場した選手の年代を比べました。日本在住の選手には、国内のIRONMANも含めています。

新規参加者のうち20192025
世界全体の30歳未満18.9%34.4%
日本在住の30歳未満10.1%10.2%
世界全体の55歳以上6.1%5.6%
日本在住の55歳以上17.8%25.6%

世界では、新しくIRONMANに出る人の3人に1人が30歳未満になりました。日本在住の新規参加者は、30歳未満が1割のままです。逆に55歳以上は4人に1人まで増えています。日本では、新しく始める人もすでに年配が中心です。

ここから言えること#

ここからは私の考えです。

  • IRONMANだけの問題ではありません。 国内の一般の大会も同じペースで高齢化しています。IRONMANの大会やブランドの見せ方を変えるだけでは、日本の年代構成はあまり変わらないと思います。
  • 必要なのは若い新規参加者です。 世界の若返りは、今の参加者が続けたからではなく、若い人が新しく入ってきたことで起きました。日本でも、20〜30代が最初の1レースに出る入り口を増やすことが一番効くはずです。
  • 遠征費の問題だけではありません。 円安とインフレで、50歳未満の遠征は大きく減りました。ただ、国内の大会でも若い人は増えていません。費用の前に、そもそもトライアスロンを始める若い人が少ないことが本当の課題です。

皆さんはどう思いますか? 若い世代のトライアスリートの方がいたら、ロングに出ない理由、または出た理由をぜひ教えてください。

よくある質問#

若い人の比率が増えたのは、参加者が減ったからではないですか?#

構成比なので、参加者全体の増減とは別の話です。そこで、2019年と2022〜2025年のすべてにデータがある大会に絞って人数も比べました。2022年→2025年で、30歳未満は70.3で1.8倍、フルで2.1倍に増えています。50歳以上は1〜2割減りました。比率の変化の大部分は、若い層が増えたことによるものです。

2020年と2021年のデータは使っていないのですか?#

構成比のグラフには入れています。ただし開催された大会が少ないので、ほかの年と同じようには比べられません。日本在住の選手のグラフでは、人数が少なすぎるため除外しました。

「日本在住の選手」は日本人のことですか?#

リザルトの居住国欄が日本の選手です。国籍ではありません。日本に住む外国籍の選手も含まれますし、海外に住む日本人は含まれません。

自分の出た大会の年代構成も調べられますか?#

集計に使ったデータはGitHubで公開しています。大会ごとのリザルトの分析は、私が作っているAI Triathlon Resultでもできます。

まとめ#

  • 世界のIRONMANとIRONMAN 70.3は、2023年から急速に若返っている。
  • 30歳未満の比率は2022年から2026年で、70.3が14%→27%、フルが9%→23%。
  • 30歳未満が50歳以上を逆転した。70.3は2025年、フルは2026年。
  • 日本人の参加者は逆に高齢化していて、海外レースでは55歳以上が45%。
  • 日本の高齢化は、50歳未満の海外遠征が7割減ったことと、国内の一般の大会でも若い人が増えていないことによる。
  • 世界の若返りは若い新規参加者によるもの。日本在住の新規参加者は、30歳未満が1割のまま。
  • 若手が増えたのは北欧・西欧・オセアニア・北米。減ったのは東アジアと中南米の一部。
  • 世界選手権の若返りは、予選があるためシリーズ全体より遅れて表れる。

「IRONMANは高齢化している」というのは日本人の参加者に限った話で、世界ではむしろ若い選手が増えていました。日本で足りないのは、トライアスロンを新しく始める若い人です。若い世代が最初の1レースに出やすい環境ができるといいなと思います。

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